御曾曾けいのログ

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人の怖さ知ることができる女性漫画『ひばりの朝』

人はどこまで他人に無関心でいられるのか?普段の生活の中で気づかないようにしている「人の怖さ」。それを教えてくれる漫画が、ヤマシタトモコ作『ひばりの朝』です。

 

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ひとつの噂が、大きな崩壊へとつながっていく

中学2年生の手島日波里。彼女が「実父から性的虐待を受けている」との、噂が周囲の人間の耳に入ります。それにより、彼女を取り巻く人たちの環境は少しずつ軋みはじめ、そして最終的には日波里の足元にも崩壊のヒビが入っていくのです。

 

たった1つの噂が大きな波紋となって、日波里と周囲の人間の呼吸を奪っていきます。

たった1つの異変が、心をむしばむ

性的いたずら 中学生

主人公・手島日波里は、中学生とは思えない肉付きの良さから、クラスメイトの男子だけでなく、実父にまで性的な目で見られています。救いなのが“見られている”だけであり、まだ手は出されていないことです。しかしその視線は、確実に日波里の心をむしばんでいきます。

 

日波里は、ごく僅かな人間に、父親から性的いたずらを受けていることを告白します。しかし、その話は徐々に拡がっていき、クラスメイトや担任の耳にまで入っていくのです。

 

日波里におきた、“性的いたずら”という異変に気付いた周囲の人たちは、時に彼女に声をかけ、時にさらに他の人へ相談と称して話を拡げ、そして日波里を追いつめます。家も、学校も、どこにも安らぐ場所がない日波里は、ある人物に全てを語ります。

群像的に広げられる、それぞれの視点

この作品の特徴のひとつが、物語が群像的に繰り広げられ、日波里の身に起こっていることを知った周囲の人々にスポットが当てられ描かれることです。

まず第1話にあたる、talk.1でスポットが当てられたのが、日波里のいとこの名輪完です。

彼は日波里の母親が仕事を終えるまでの間、日波里を預かっている人物です。完の恋人・富子と、後に紹介する完の友人でもある憲人とは大学時代からの友人です。この関係性が、物語の中で重要なポイントとなります。この話でキーとなる言葉は「いつも大切なことを見逃す」です。

 

そして、talk.2でスポットを当てられるのが、先ほども紹介した完の友人の並木憲人です。

憲人は、完と日波里が一緒に歩いているところを見かけてしまいます。そこで、日波里と取引先の学校で、偶然に出くわしたことから、日波里をお茶に誘いだします。ここで重要なポイントが、憲人は学生時代から好きだった富子の処女を奪った完を、内心では良く思っていないということです。この話でキーとなる言葉は「いつも他人の人生の脇役」です。

 

talk.3は完の恋人・矢野富子にスポットが当てられます。

長身で宝塚の男優のような容姿をしていることから女性受けは良いのですが、それをコンプレックスに思っており、女として見られたい願望が非常に強い人物です。彼女は、完との関係を悩みながらも、初めて女として見てくれた完を捨てきれずにいます。この話でキーとなる言葉は「あたしとは違う」です。

虐待 子供

そして、talk.4は日波里のクラスメイト・相川勇にスポットが当たります。

小学生の時から日波里のことが気にはなっているものの、勇は自分自身が本当に日波里のことが好きなのかどうか分からないまま、日波里に告白をしてしまいます。しかし、勇は振られてしまうのです。この話でキーとなる言葉は「キミの何を知っていれば キミをスキでいてもいいの」です。

 

そして、talk.5のスポットがあたる先は日波里のクラスメイトの安倍美知花です。

教師、クラスメイトともに評判が良い美知花ですが、全ては彼女の計算によって生まれたもの。そして、彼女は優しい美知花を演出するために日波里に近づくのです。この話でキーとなる言葉は「ミツのアジ」です。

 

talk.6では、は日波里の担任の辻にスポットが当たります。

誰に何を言われても顔色を変えないほど他人に無関心だった辻ですが、日波里の立たされている状況を知り心が揺り動かされていきます。この話でキーとなる言葉は「傷つかない はずの 心が なけなしの良心が き し む」です。

 

そして、talk.7では日波里自身にスポットが当たります。

父親が自分を性的に見てしまうのは、仕事が忙しくてイラついているから。男の人が自分を性的に見るのは、そういう人だから…。
いろいろと理由をつけて、自分を納得させようとしていましたが、最後には彼女は考えることをやめてしまいます。そして、ここでキーとなる言葉が「あたしがわるいんです」。

知っているのに、何もしない怖さ

実の父親から、性的ないたずらを受けている中学生の少女がいる。
それを知ったら、誰もが助けようと考えるのではないでしょうか。

 

本人に事実確認をとって児童相談所に相談、少女の安全を確保する―助ける方法はいたってシンプルなようですが、行動をおこす人間がいなければ、実現しません。

 

ひばりの朝」には、心の底から「日波里を助けてあげたい」と思う人がいません。作品はフィクションですが、現実のような生々しさがそこにはあります。

 

誰もが異変に気付いているのに、遠くから眺めているだけ。大人でさえ助けることをしない。

近くて遠い、他人の存在がひばりを孤立させていきます。

 

人はどこまで他人に無関心でいられるのか。他人だから助けない。それは、現実もフィクションも同じなのかもしれません。

 

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